主な浸水被害と整備状況

海老川流域は、昭和30年代後半からの高度成長期の急激な市街化によって、それまで水田や畑が有していた保水・遊水機能が低下し、洪水時における流出量の増加と治水対策の遅れなどにより、昭和50年代になると市街地における浸水被害が顕在化しました。

治水事業により、現在では海老川河口から八栄橋間が概成(1時間に約30mmの降雨に対応)、長津川全川と長津川調節池の改修が完了(1時間に約50mmの降雨に対応)していますが、流域全体で目標とする治水安全度の確保には至っていません。

過去の主な浸水被害の状況

図 過去の主な浸水被害の状況
出典:二級河川海老川水系 河川整備計画 R1.1 千葉県

気象状況

統計値が存在する昭和54年以降40年間の船橋観測所の年降水量について、最近の10年間の平均(約1,498mm)は、統計期間の最初の10年間の平均(約1,255mm)と比較して、約1.2倍に増加しています。

図 船橋観測所の年降水量の経年変化
図 船橋観測所の年降水量の経年変化

出典:気象庁 船橋観測所(アメダス)データより作成

50mm/hr以上の降雨発生日数の経年変化について、最近の10年間の平均(約4.9日)は、統計期間の最初の10年間の平均(約2.5日)と比較して、約2.0倍に増加しています。

船橋市観測所の50mm/hr以上の降雨発生日数の経年変化
図 船橋市観測所の50mm/hr以上の降雨発生日数の経年変化

出典:気象庁 船橋観測所(アメダス)データより作成

30℃以上の発生日数の経年変化について、最近の10年間の平均(約52.9日)は、統計期間の最初の10年間の平均(約30.3日)と比較して、約1.8倍に増加しています。

船橋観測所の30℃以上の発生日数の経年変化
図 船橋観測所の30℃以上の発生日数の経年変化

出典:気象庁 船橋観測所(アメダス)データより作成

以上のことから、海老川流域では年間の総降水量が上昇していることに加え、50mm/hr以上の豪雨発生頻度や30℃を超えるような真夏日の発生頻度も増加傾向にあり、気象の変化によるリスクが高まっていると考えられます。

人口

海老川流域は、東京に近い立地と交通利便性の高さを背景に、高度経済成長時代の人口の集中化に伴い首都圏のベッドタウンとして次々と大規模な住宅団地等の立地が進み、昭和30年代後半(1960年頃)から急激に人口の増加が続きました。その後も同様の傾向で人口増は推移し、平成27年度の海老川流域内の人口は256,088人となり、現在も緩やかな増加傾向にあります。

海老川流域内人口の経年変化
図 海老川流域内人口の経年変化

出典:船橋市アンケート調査

船橋市の将来人口について、「人口推計調査報告書 第2版 令和元年5月」(船橋市)では、船橋市全域における2018年の総人口(4月1日時点の住民基本台帳による)は63.7万人であり、2033年まで緩やかに増加を続け、66.4万人をピークに以降は減少し、2043年には66.1万人、2063年には62.8万人となる見込みとされています。

船橋市総人口の将来推計結果
図 船橋市総人口の将来推計結果

出典:「人口推計調査報告書 第2版 令和元年5月」(船橋市)

土地利用

  • 海老川流域内の土地利用の変遷を見ると、海老川流域内の市街化率は、昭和20年代では15%に過ぎませんでしたが、平成26年には約81%に増加してます。
  • これは、1960年代から1970年代前半の高度成長期に団地や宅地が相次いで造成され、1996年(平成8年)には東葉高速鉄道も開通するなど大規模な開発もあり市街化が急速に進んでいることが背景にあります。
  • 市街化率の拡大は、屋根や道路などの雨が浸透しない面積を増大させ、水の流れに様々な影響を与えると考えられていることから、浸透対策等を推進する必要があります。
海老川流域内の土地利用構成比

※平成26年は、国土交通省 国土数値情報ダウンロードサービス(土地利用細分メッシュ100m)
※平成26年以外は、数値地図5000(10mメッシュ)
※図中の構成比の合計は、四捨五入による表示のため100%とならない場合がある
図 海老川流域内の土地利用構成比

下水道の整備と河川水質

  • 下水道整備が急速に進められており、令和3年時点の海老川流域の下水道処理人口普及率は約90%に達しました。また、合併処理浄化槽を含む汚水処理人口普及率は令和2年時点で約97%に達しました。
  • 汚水処理人口の増加により汚濁負荷量が大きく減少した結果、河川の水質は大きく改善し、令和元年には再生構想(当初)の中期目標であるBOD 5.0mg/Lを概ね達成しています。
  • 再生構想(当初)の長期目標では、非常にきれいな水がイメージされ、アユやオイカワなど清流に棲む魚が生息可能で、かつ川に入って遊ぶことのできる水質(BOD3.0mg/L)を目標としており、今後も下水道等の整備が進捗することでさらなる水質改善が期待されます。
下水処理人口と河川水質(BOD:八千代橋)の経年変化

図 下水処理人口と河川水質(BOD:八千代橋)の経年変化

河川水質の最新の観測状況はこちら

水質観測データ(船橋市)
水質観測データ(鎌ケ谷市)

河川流量

海老川流域では現在も下水道の整備が進められていますが、下水道に流れ込んだ排水は海老川流域の外にある下水処理場で処理されて流域外へと放流されています。このため河川に流入する汚水は減少しましたが、一部の河川において流量が減少傾向にあります。

このため、流域における浸透対策(雨水浸透施設の設置、公園・緑地の整備と保全など)等を推進し、河川流量の確保に努めていく必要があります。

河川流量
海老川(八千代橋)における河川流量の経年変化

図 前原川(相之谷橋)における河川流量の経年変化
出典:船橋市水質調査

生態系の変化

飯山満川と長津川で実施されている生物調査の結果、魚類については種類数、個体数が増加傾向にあり、比較的きれいな川に生息するアユが飯山満川、長津川ともに確認されるなど、魚類にとっては、住みやすい環境となり始めているものと考えられます。

生態系の変化

また、底生動物についてもユスリカ類等の汚い場所に生息する種の個体数が大幅に減少しており、底質が泥から砂泥等に変化し始めていることから、全体的には魚類や底生動物の生息環境が改善されているものと考えられます。

生態系の変化

一方で、外来種の存在も多く確認されており、これらの外来種が在来種に及ぼす影響も無視できないことから、今後も海老川が本来有する生態系の回復に向けた取組を進めていく必要があります。

図 海老川流域で確認された主な外来種
出典:平成27年度 県単都市河川再生対策委託(生物調査) H28.2 千葉県葛南土木事務所

災害時や渇水時への備え

平成23年3月11日14時46分、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の「東北地方太平洋沖地震」が発生し、東北地方と関東地方の太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらしました。また、大津波以外にも、地震の揺れや液状化、地盤沈下などによって、東日本の広い範囲で各種インフラや住宅等に大きな被害が発生しました。
海老川流域やその周辺においても上水道施設や下水道施設など様々な被害が生じました。

名称 被害状況
水道
  • 市内30戸で断水(県報告値)。千葉県水道局管内4の市内の南部を中心とした83カ所で漏水等の施設被害
  • 習志野市企業局管内の三山で1カ所が水道管の破損
  • 若松団地を含む、若松地区で断水状態となり、給水車が出動
下水道 【市所管分】
  • 若松などの11カ所で下水道管詰まり、マンホール付近陥落、処理場躯体亀裂等の被害
【県所管分】
  • 企業庁千葉建設事務所葛南支所管内は土砂流入により、菅閉塞が生じ流下不能の被害

表 東日本大震災における船橋市の水道・下水道被害状況
出典:<東日本大震災>船橋市の被害状況および一連の対応に関する記録 H24.3 船橋市

水道管の損傷によりあふれ出た水

図 水道管の損傷によりあふれ出た水
出典:<東日本大震災>船橋市の被害状況および一連の対応に関する記録 H24.3 船橋市(資料編)

東京湾北部地震(マグニチュード7.3)における被害想定では、断水人口は船橋市で33万2千人、鎌ケ谷市で3万6千人に及ぶと想定されています。(「水道局水道事業震災対策基本計画 平成30年3月 千葉県水道局」より)
大規模地震による断・減水の影響は広範囲でかつ非常に深刻な状況が想定されており、水循環の再生においても、震災時や渇水時における非常用水源の確保や、水を無駄にしない節水型社会システムの構築が重要な課題となります。